江戸時代のヘアスタイルカタログ
『当世かもじ雛形』は安永8年(1779)に京都で出版されたヘアカタログ。安部玉腕子(あべぎょくわんし)画。
髱が後ろに伸びた「鷗髱(かもめづと)」や、宝暦頃から流行した「燈籠鬢(とうろうびん)」など、江戸時代中期の多様な鬢、髱、髷の組み合わせ例が描かれ、当時の女性たちがどんなお洒落を楽しんでいたかを垣間見ることができます。
*京坂では髷は「わげ」、髱は「つと」と言った。
*前結びの帯で前櫛や簪をたくさん挿しているのは遊女。広袖の振袖に「ささげ」と言われる
色紐を下げているのは禿。眉毛のないのは主婦で、前髪の部分に紫帽子(野郎帽子)をつけ
ているのは女形。
国立国会図書館
デジタルコレクションより
當世かもし雛形一巻は阿部玉腕子の筆にして、女子の髪結形二十六種とかもし形十余種とを揚け、各其の名称を記したるものなり。これによりて徳川中世期における女子の髪結形の沿革をも知るへく、これにより其の名称の髪結法をも知るへし。されは本書は風俗史上必要なる参考書なり。たゝ憾(うら)むらくは、奥書に阿部氏は洛東之住人とのみ見えて伝記の知れさるにあり。此書安永八年の出版に係る。
序
実(げに)や女は髪のめてたからむこそ、人のめたつべかめれ。大象(だいぞう)もよくつなかるゝとは、よし田の何かしもいひ置(おき)侍る。春は緑の柳髪より、なつは蟬翼(せんよく)たるとうろうひん(燈籠鬢)、秋は木葉(このは)の落髪(おちかみ)やかしら(頭)の雪とつもるまでまさきのかつら(真折の葛)長かもし、絶せぬ髪の品々を筆に写して女の一助ともなれかしとしかいふ。
安永八年つちのとの亥の春
江戸の女性は月に一・二回 京坂ではあまり洗わない
中なてひん(中撫鬢) かもめつと(鷗髱) 両手わけ(両手髷)
花ひしつと(花菱髱) まるわけ(丸髷)
哥津山ひん(勝山鬢)に 合せつと(合せ髱)
うつほひやうこわけ(靫兵庫髷)
中ひん(中鬢) ひしつと(菱髱) よこひやうこ(横兵庫)
はり出ししゆすひん(張出繻子鬢) 腰おりしまたわけ(腰折島田髷)
とうろうひん(燈籠鬢)に 源八つと
さゑたしまたわけ(小枝島田髷)
中なてひん(中撫鬢)に かもめつと(鷗髱) かたわけ(片髷)
丸やまひん(丸山鬢) つりふねわけ(釣舟髷)
吾妻ひん(吾妻鬢)に かひなてつと(掻撫髱)
茶せむわけ(茶筅髷)
くりひむ(繰鬢)に けしつと(芥子髱)
うつほさきかうかひ(靫先笄)
すきあけ髪(梳上髪)に こたひつけ(五体付)
くるまひん(車鬢) ばいわけ(貝髷)
桔梗ひん(桔梗鬢)に すゝめつと(雀髱)
かしまやしまたわけ(かしまや島田髷)
すゝめひん(雀鬢) かりかねつと(雁金髱)
つりはけ(吊り刷毛) 中つりはけ けしほん
つとうら(髱裏) かたびん(片鬢) 中かもじ
まえかみ(前髪) ひんみの(鬢蓑)
せきれいつと(鶺鴒髱) なけしまたわけ(投島田髷)
きんしやうしようひん(錦祥女鬢)に
うつせみわけ(空蟬髷)
すゝめひむ(雀鬢) 小まんしまたわけ(小万島田髷)
中なてひん(中撫鬢) かせわけ(桛髷)
山かたくりひん(山形繰鬢)に 源八つと
むすひ立ひゃうこ(結立兵庫)
すゝきひん(薄鬢)に おとしはらけつと(落散髱)
きりすみしまたわけ(きりすみ島田髷)
うはなて(上撫) ひしつと(菱髱) さきかうかひ(先笄)
とうしかみ(童子髪)に けしわけ(芥子髷)
ふかしひん(ふかし鬢)に みつつと(三ツ髱)
しのふわけ(忍髷)
はふたへひん(羽二重鬢)に せきれいつと(鶺鴒髱)
ひやうこわけ(兵庫髷)
下なてひん(下撫鬢) なけしまたわけ(投げ島田髷)
くしまきのはらけかみ(櫛巻の散髪)
かいわりなつと(貝割菜髱)
かたはすしかうかひわけ(片外し笄髷)
長かもじ ひんはり(鬢張)
いれづと(入髱) さしづと(挿髱)
びんづら(鬢づら) いかたかもじ(筏髢)
右作者阿部玉腕子ハ洛東之住人二而其名有、模スル処之雛形篇集メ全部一冊ト成ル、普世二流布セン事ヲ希而巳
安永八年 つちのとの春
彫刻 玉や庄兵衛
寺町松原上ル町
きくや七郎兵衛
三条烏丸西江入町
八わたや勘三郎